1990年代前半まで市場規模を拡大し続けて、一時は不況に強いと言われていた出版会社。以降売り上げは右肩下がりになり、今では斜陽産業の代表として挙げられることも多くなっています。
それでも、依然として出版社の編集者は、就活生の憧れの職業として上位にランクインし続けています。この結果はつまり、未来ある若者たちは出版社の将来性を期待しているということ。
しかしながら、出版社の未来は本当に明るいのでしょうか?
今回は、業界に10年以上いる現役雑誌編集者が、出版業界志望者に向けて出版社の現状と未来についてお話ししたいと思います。
出版社の未来は…
率直に言うと、大手を含め、出版社の未来は暗いでしょう。特に主力の紙部門は壊滅的な状況。「紙はそれでもなくならない」など、ポジティブな話題を取り上げている記事もありますが、所詮情報の出どころは出版社。忖度してるとは言いませんが、身内の情報を書いているに過ぎません。だから正直、明るい未来は待っていないと思います。
実際、出版科学研究所のHPに日本の出版販売額のグラフが出ていますが(詳しくはこちら)、軒並み右肩下がりになっています。唯一増加傾向にあるのは電子化がうまくいっているコミック部門だけ。
つまり出版社は今、紙に頼っていた従来のビジネスモデルを大きく変えなくてはいけない状態に追い込まれています。
大手は他業種に力を入れて事業を伸ばしていけますが、体力のない中小はそうもいきません。いまだに紙の出版物に固執している会社が多数存在します。しかも、企業だけではなく、編集者の中にも「紙媒体を担当したい」と希望する人はたくさんいます。
紙媒体にこだわる訳
なぜ、企業がこれほどまでに紙媒体にこだわるかというと理由は簡単。それは、既存の事業を手放したくないから。紙が売れた時代のなごりなのでしょう。電子化にうまく踏み切れず、過去の栄光にすがっている会社は星の数ほどあります。
会社だけでなく、編集者側が紙にこだわる理由もいくつかあります。その中で代表的な理由を一つ挙げるとしたら読者が内容をしっかり読んでくれることでしょうか。WEB媒体だと読み飛ばされる前提で記事を書き、大事なところを装飾してビジュアル的にも分かりやすいスタイルでまとめるようにします。しかも同じことを繰り返し書き、無駄に文章を長くしている文章も多いですね。それに比べて、紙媒体の記事は文章をしっかり読んでくれることを前提に記事を書く場合がほとんど。媒体によっては、割と凝った文体でも掲載できます。活字にこだわる人間からしたら、この環境を天国のように感じているでしょう。
関わる人たちを魅了してやまない紙媒体ですが、先のデータを見ての通り、これからますます衰退して淘汰されていくことは目に見えています。ただ、紙媒体を中心に据える中小出版社はすべて消えてなくなってしまうかというと、そうではありません。厳しい未来が待っているには違いありませんが、生き残る策はまだあると考えています。
具体的には、特定ジャンルに特化した専門誌、もしくはコレクター化する要素のある本を作りをする会社は残るでしょう。事実、男性アイドル誌「Myojo」「POTATO」などは巣ごもり需要により、このコロナ禍で発行部数を増やしています。コレクション要素のある雑誌は今後も伸びていくはずです。
中小出版社で働く編集者のこれから
では、中小出版社で働く編集者はどうでしょうか? 仮に紙媒体で終わりを迎えようとしても、紙で培った編集経験は、いつかきっと生きるはずだと個人的には考えています。
今は分かりやすいと言われる、WEB特有のPREP法やSDS法の記事であふれていますが、電子化のさらなる普及によって、WEBコンテンツでも読み飛ばしすることなく熟読をする習慣が読者の間で身に付くはず。そうすれば、紙で培った文体が生きる時がきっときます。
実際、近年のNEWSPICKSの台頭や経済紙のオンライン化により、WEBでも読み物としての記事に一定の需要があることは分かっているので、あとは時間が解決するでしょう。
未来の編集者に伝えたいこと
脱線が多くなりましたが、最後に未来の編集者に向けてアドバイスを。中小出版社、特に紙を中心に扱う会社の未来は、一部を除いて暗いです。でも、そこで身に付く能力はこれからの時代に生かせる可能性はあります。紙媒体の編集者を目指す若者は「決して楽な道ではない」ということを覚悟の上、応募してほしいと思います。
自戒の念を込めて…。
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